「好奇心の赴くままに」流れに乗っていく|髙木直子さん 

区が催す演劇公演企画に気軽に参加したのがキッカケとなり、俳優の道を進むことになった髙木直子さん。これまでの経緯とこれからについて、お話をお伺いしました。

目次

「暇だったから」から始まった俳優の道

HIYAMA

現在は映像をメインに俳優の活動をされていますが、始めようと思ったキッカケはどのようなものだったのでしょうか?

髙木

暇だったからなのよ。
大学を出てから、会社に入社して働くって経験がなくて。最低限生活が出来れば十分でずっとバイトをしていた。子どもが生まれてからはバイトも辞めて。子どもが歩くし、喋れるし、ご飯も自分で食べられるようになって、ひと段落した時に「暇だな」って。「なんか面白いことないかな~」って。
その時に新聞の折り込み広告に区報が入っていて、その中に区が催す演劇のお祭りへの参加者募集があったので、応募したの。顔合わせの日は100人ぐらい集まっていて。オーディションはなく、老若男女問わず全員参加。それがキッカケ。

HIYAMA

気楽に参加できる演劇イベントとはいえ、人前に立つことに抵抗はなかったのですか?

髙木

全然無かったですね。これは父譲りだと思います。
父が仕事柄、人前に立つ機会が多く、原稿なしで1時間とかテーマにそって普通に喋れちゃう人だったので。
あと大学の時にモダンダンス研究会に入っていたから、多少人前に立って照明をあびる経験もあった。

お稽古は遊園地に行くような気分だった

HIYAMA

初めてのお稽古はいかがでしたか?

髙木

めちゃくちゃ楽しかった。地元の劇団さんがお世話についてくださったの。
演出家さんは、お芝居について教えるというより、まずみんなですんごい遊んだの。ボール投げをしたり、風船をたくさん作ったり。遊んでいるだけだから、間違いが無いんだよね。出来る、出来ない、正解、不正解も考えずに、ただ楽しんだ。4か月間、毎週末にあったお稽古は、遊園地に行くような気分で行ってた。 
演出の仕方も、演目がアリストパネスの戯曲「女の平和」で。「なおちゃんは、お家に帰りたいんだよ」といったとてもシンプルなものでした。

HIYAMA

4か月間のお稽古を経て、本番はどうでしたか?

髙木

緊張は全くしなかったんだけど、今でも鮮やかに覚えている感覚があって。あるシーンの時に、カーテンが開くような、滝が開くような、お客さんの存在がワーッと私の中に入ってきた、「あー!!」ってなった(笑)

これまで味わったことのない感覚に出会った初舞台公演
HIYAMA

それは喜びの感覚ですか?

髙木

恐怖とは違うんだけど、人に見られる喜び、重大さのカケラが分かった瞬間だった。赤ちゃんのハンドリガードみたいな。自分の手を認識して、まじまじと見つめるような感じ。

HIYAMA

その公演で感じたことが、その後のお芝居への関心を高めることに繋がっていったのですか?

髙木

いや、毎年開催していて、また遊びに行こ~って(笑)計4回参加しました。

「楽しい」だけではないお芝居の魅力にハマっていく

HIYAMA

では、どこから自らお芝居方面に進もうと思ったのですか?

髙木

4回目の時は、お馴染みの参加者グループがあったので自分たちで演出家を選んでお願いしたの。自ら頼みに行くってことは、「これは戻れなくなるかもな」とうっすらと予感がしてた。
初めて”ドラマのある役”をいただき、俳優の楽しさだけでなく、苦しみも味わうこともできて、「予想通り!もう戻れないじゃん!」って思った。

HIYAMA

それまでの公演で演じた時とは何が違ったのですか?

髙木

“役で生きる”っていう感覚を初めて持てたってところ。どこかにいるかもしれないその人を、私の体と声と心と頭を使って、代わりにそこに居るんだなって感じ。

HIYAMA

先ほどの「苦しみ」とはどういう意味ですか?

髙木

出来ないことがたくさんあるってこと。お芝居の機会は年一回の公演のみで、演劇学校に通うわけでもないから、どうやって表現すればいいかも分からない、そのもどかしさ。
 
演じた役は、密かに愛していた人を亡くすの。骸になって戻ってきたその人を迎えた時に泣くシーンがあった。お稽古の時も本番もまったく泣けなくって。悲しみは溢れかえっているのに、出口が見つからない。
でも、この時の公演は2回あって2回目に出口が見つかった。どういった出口かは言葉にできないのだけれど、ホール全体に響き渡るくらいの叫び声、切り裂くような声が出て、自分でもびっくりした。叫び泣いている自分はもう”その役が叫んでいる”って感じだった。

HIYAMA

お芝居を通して、味わったことのない新しい感覚にたくさん出会ったのですね。

髙木

そう、だから楽しくてしょうがなくって。発見ばっかり。

参加者から劇団の主宰者へ

HIYAMA

新しい感覚とも出会ったその後、どういう展開になったのですか?

髙木

4回も参加していたら、区の担当者から「税金でやっているので、何回も来ないでください」って言われて(笑)

HIYAMA

区としては、いろんな方に体験してもらいたいってことでしょうかね?

髙木

そうそう、そうだと思う。
でも「こんな楽しいのに!もう出来ないなんて!」ということで、1本指を掲げて皆さんに声をかけたら、結構集まって。 
「公演を打つなら劇団を立ち上げた方がいい」とアドバイスをいただいたので、私が座長で他俳優2人、制作スタッフ1人を軸に旗揚げ。数回公演した後は劇団を後任に譲り、プロデュース公演の実施や、客演で他の劇団さんの舞台に出ました。

HIYAMA

お芝居の経験を積まれていく中でも、「演じることが楽しい、お芝居をする機会が欲しい」というお気持ちはそのままでしたか?

髙木

変わらず。それは今現在も変わらない。ずっと楽しくてしょうがない。

舞台から映像の世界へと

HIYAMA

舞台を離れて映像にシフトしたのはどうしてでしょうか?

髙木

離れようと思ったわけではないのよ。映像関係に出たいみたいな思いも特になかった。
舞台をしている間に知り合った俳優さんから「友人が芸能事務所を作って、年配層が少ないみたいだから入らない?」とお誘いを受けて。「なおちゃんのお芝居は、映像にも合うと思うよ」とも仰っていただいたので「お役に立てることがあるなら」と決めた。
所属するからには、ある程度スケジュールを渡す必要があるかなと思い、進行中の舞台案件が終わり次第、映像優先にしていきました。

HIYAMA

「事務所に入ったぞ、頑張る!」と気負う感じで映像に進まれたわけではなく、自然と移行されたのですね。

髙木

そうですね。頑張る―!みたいなのは無かったの、申し訳ないけど(笑)

HIYAMA

事務所に入られて初めてのお仕事はどんなものでしたか?

髙木

広告案件。書類選考が通ったからと、何も分からず対面オーディションへ行きました。ろう者の母親役。お嫁に行く愛娘を想って涙するシーンを指示されたから「はい」ってやったら、選んでいただけた(笑)

HIYAMA

なんと(笑)「お芝居してください」「はい」って、潔いですね。

髙木

オーディション後、あるスタッフの方に「どうして泣けるんですか?」と聞かれたんだけど、「泣けって言われたから」としか言いようがなかった。
私の中では、指示に対して作業的に反応したというより、「役(母親)は泣いてる」という情報をもらって、役に寄り添った結果自然と泣けたという感じで。役の人が泣いてるから泣けたんだと思う。

映像ならではの面白さに出会っていく

HIYAMA

映像の現場特有の戸惑いなどはありましたか?

髙木

戸惑いはなかったけど、相手が目の前にいない、または対象が無い状態で、いる、ある風で演じるというのは初めてだった。先ほどの広告撮影ではスマホで娘とテレビ通話するシーンがあって。スマホは真っ暗で何も映っていない。でもディレクターさんが娘のセリフを言ってくれていたから、やりづらさは無かったかな。

HIYAMA

舞台と映像とで違いを感じた部分はありましたか?

髙木

舞台は「ここではこの役に焦点が当たる」っていうのがある。「フォーカスを自分に向ける」ためのテクニックが必要なのよね。映像の場合は、カメラからフォーカスを合わせにくるので、自分に向けようという働きかけが不要なところが、ちょっと違うかな。
 
あと、美術、照明、大道具とかも、舞台とはまた違う面白さがあって。どちらもすごく楽しい。事務所には感謝だし、声をかけてくれた知人には「紹介してくれて、本当にありがとう!」って思ってます。

俳優を続ける原動力とは

HIYAMA

楽しい!という感覚や、新しい発見、好奇心を刺激されることが、活動の原動力になっていますか?

髙木

そうね、それもある。
何かを演じるっていうのは、果てしなく到達点がない。できた気がしないというか。やってもやっても出来ないから「次こそはできるかな」と思いながら毎回やってる。

HIYAMA

苦手な表現があるとかでしょうか?

髙木

「ああもできたよね」「この手もあったよね」「あの人はこうしようとしてくれたんじゃないか」みたいなことに、後で気付くことが多いって感じ。

HIYAMA

後悔というよりも、「もっとこういうことが出来たのでは!」という貪欲さでしょうかね?

髙木

そうそうそう!「なんであの時気付けなかったのー!」って。

お芝居を続けていく上で大切にしていること

HIYAMA

お芝居を続けていく上で、大切にしていることはありますか?

髙木

健康でいること!

HIYAMA

間違いないですね(笑)健康のために意識されていることはありますか?

髙木

体重管理やスタイル維持という面だけでなく、内臓脂肪がつき過ぎることで起こり得る成人病は避けようとは意識しています。あとは、うがい手洗いはもちろん、ちょっと頭が痛い、ちょっと喉に違和感があるのをすぐキャッチして対処する。転ばぬ先の杖みたいな気を付け方。
 
とはいえ、20歳からタバコを吸っているんだけど、それを止める気はないかな。止めろよって感じよね(笑) 健康のために止める気にならないのは、タバコって私にとって服を着て、ピアスを付けてみたいなアクセサリーでもあり、考え事をする時にとても重宝する。

HIYAMA

タバコで一服する時独特の頭の整理のされ方ってありそうですね。

髙木

そうそう。タクシーに乗っている時のボーッとする感じに似てる。1日24時間とは別の時間という位置づけ。頭を切り替えられるというのもある。電子タバコではダメで、紙タバコじゃないと意味が無いの。

HIYAMA

実際、現在健康は維持できていますか?

髙木

そうね、ここ何十年かで風邪などで寝込んだことはほぼ無いかな。

体だけでなく心の健康のために

HIYAMA

体調に気を付けることは、心の健康にもなっているとは思いますが、精神面で何かケアはされていますか?

髙木

ズッキーニに水をやる。

HIYAMA

家庭菜園でしょうか?

髙木

ここ数年なんだけどね、興味本位で始めて。最初は軍手しながら土いじりしていたけど、いつの間にか素手でするようになってた。それが気持ち良いの。庭に出て水やりしたり、成長を見ているのが、面白い。
心の健康を意識して始めたわけではないけど、土いじりしている時はなんにも考えずにいられる。取りかかり中の台本があれば、常に頭の中に映像が流れ続けちゃうけど、その時だけはパッと離れられる。
タバコはより深く考える用。土いじりは何も考えない用。

HIYAMA

お芝居もそうですし、土いじりなども、気負って始めるというより、スーッと流れに身を任せてという感じですね。

髙木

そうね。子どもの頃から興味があるところに行っちゃう。やりたいことしかやってこなかった。
 「若い時に苦労は買ってでもしろ」とか言われるけど、若いうちの苦労はしなくていいと思う。苦労って顔に染みつくから。苦労の多い人の役だけをしたいならいいけど、そうでない役もたくさんあるから、極力ニュートラルであった方がいいかなって。

土いじりは思考することから離れられる時間

趣味の中にも”表現”がある

HIYAMA

家庭菜園の他にも趣味などはありますか?

髙木

洋裁。3歳ぐらいから母が洋裁する横で、端切れをもらって人形の洋服を縫っていたって。表現するっていう意味では、洋服を作るのも同じ感覚。

HIYAMA

頭の中にあるイメージをカタチにしていく点でしょうかね

髙木

そうそう。やっていること自体が好きなので、編み物とかも「もっとこうしたらいいかも」と思ったら、あっさり解いちゃう。早く完成させたいとか、完成したものを崩したくないっていう執着が無い。

ご自身で作ったワンピースを着る髙木さん

悩みが無い?!の秘訣

HIYAMA

髙木さんはご自身を楽しませることが自然とできる方だなという印象なのですが、悩んだ時はどのように対処されていますか?

髙木

考えることはあるけど、悩むっていうのは、、、う~ん・・・

HIYAMA

パッと浮かばないということは、あまり深刻に考え込まずに済んでいるのでしょうかね。

髙木

わりとね、すぐ人を頼るのよ。困ったりすると「あの人に聞いてみよう」って。私からするとその分野に長けているなと思う方をすぐ頼っちゃう。

HIYAMA

悩む前に頼ることが出来ているってことですかね?

髙木

そう、そうなの!多分そう。わたくしは、本当に人様に生かされています(笑) 

HIYAMA

髙木さんのお人柄あってこそですよ!

お芝居への扉を開いてくれた人・伴走してくれた人

HIYAMA

これまで多くの経験をされてきた中で、現在のご自身に大きな影響を与えた出会いや出来事はありますか?

髙木

本当に多くの方が、いろんなことを言ってくださって、たくさんの手助けをしてくださった。

ただ、俳優としてという点では、演劇の扉を開けてくださった一番初めに出会った演出家さんは、まったく自分が知らなかった世界を見せてくれた。しかも良い方向で。「お芝居ってすっごく楽しいんだよ」というのを教えてくれたことがDNAに組み込まれた感じ。おかげで、どんなことがあっても、どこへいっても「お芝居は楽しいんだ」って思える。
 
もう一人は、劇団の旗揚げに加わってくれた相方。彼女は若い頃からお芝居をしてきた人で、素敵なお芝居をする人。私はお芝居をしたい気持ちはいっぱいなんだけど、出来ることがすごく少なかった。どこに飛んでいくかも分からない私のボールを、辛抱強く拾っては投げ返してを繰り返してくれた。私生活も含めて、かなり濃く一緒に生きていましたね。

HIYAMA

最初のお芝居への印象が違っていたら、現在はだいぶ変わっていたかもしれませんね。

髙木

お芝居はやっていなかったんじゃないかな。「楽しいそうじゃないから帰ろう」で終わっていたと思う。

HIYAMA

やはり「楽しそう」「楽しい」の感覚が、今も俳優活動が続いている理由でしょうかね。

髙木

そうね。だから、現在はギャラをいただいてお芝居をしているけど、今も見る人によっては、アマチュアにしか見えないかもね。

“軽やかに”お芝居をしたい

HIYAMA

今後、やりたいことや興味があることはありますか?

髙木

軽やかにお芝居がしたい。

HIYAMA

「軽やか」とは、どういう意味でしょうか?

髙木

台本の中には書いていないであろう、ちょっとした目線や所作、本当に何気ない、思いもつかないような動き、表現ができるようになりたい。

HIYAMA

演出を付け切れない、より感覚的な領域のことでしょうかね。

髙木

そうね。それって、やろうとして出来ることではない気がしていて。思わず出てくる様子に、とても軽やかさを感じる。だからこそ、そうありたい。そのために、もっと役で生きたい。

100年残る作品に出たい

HIYAMA

こういった作品に出たいや、どんな役をしたいなどはありますか?

髙木

100年残る作品に出たい。ワンシーンでも良いの。私個人にとってだけでも、何度見ても感銘を受けられるような作品。100年後残っているかを自分は確かめられないけれど、未来の誰かにも何かを感じてもらえるのであれば本望だなって。
娘や孫たちが私が居なくなった後も、会いたい時に会えるものが残っていたらなとも思います。

HIYAMA

本日はたくさんのお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!

髙木

ありがとうございました!

インタビュー後記

興味関心があっても、一歩を踏み出すことは勇気が必要だなと思うのです。一歩を踏み出せずに終わってしまうことの方が多いのではないでしょうか。それに対して、髙木さんの好奇心に対しての誠実さ、その誠実さを行動に転換させるフットワークの軽やかさが、俳優としての道を自然と切り開いてこられたのだなと感じました。

楽しむ心から来る貪欲さが自然とお芝居への探求心となり、”役を生きる”中で新しい自分との出会いを楽しまれているようで。お芝居についてお話される時の、言葉を紡いでいく様子がとても印象的でした。

インタビュー時には、髙木さん手作りのオートミールクッキーをいただきました。ありがとうございます!美味しかったのです・・・すごく・・・また食べたいです!(笑)

うまうまだったオートミールクッキー

髙木直子(たかぎ なおこ)さんプロフィール

30代まで、主宰する劇団で主演・準主演を務め、その後フリーに転身。これまで30本以上の舞台公演に出演し、現在は主な活動の場を映像に移行。主な出演作には、映画『うぉっしゅ』(岡﨑育之介監督)、大河ドラマ「どうする家康」、NHK連続テレビ小説「エール」、映画『万引き家族』(是枝裕和監督)、大河ドラマ「いだてん ~東京オリムピック噺(ばなし)~」、ドラマ「絶対零度~未然犯罪潜入捜査~」等がある。

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